先日、建設業を営む60代の社長と話していたとき、こんなひとことが出ました。
「息子はいるんですが、まだ継ぐかどうか本人が迷っていて。決まったら相続の対策も一緒に考えようと思っているんですよ」
その言葉を聞いて、内心かなり焦りました。年商は約10億円。業歴も30年近い、地域では知られた優良企業です。そういう会社の自社株の評価額は、3億円を超えることがざらにあります。後継者が未定のまま相続が起きたら、その評価額にそのまま相続税が課税されます。
非上場株式の評価額は「思っているより高い」
「うちは上場していないから、株の価値なんてたかが知れている」と思っている経営者は多いのですが、実際にはそうではありません。
非上場株式は、国税庁が定める「取引相場のない株式の評価方式」に従って計算されます。純資産価額方式や類似業種比準方式と呼ばれる手法で算定されるのですが、年商10億円クラスの会社ならば、3億〜5億円という数字が出てくるケースは少なくありません。
しかも少し厄介なのが、「会社が黒字で順調なほど、評価額が上がる」構造になっている点です。真面目に経営してきた社長ほど、相続税の負担が重くなりやすいという皮肉な現実があります。
2027年12月末が事実上のタイムリミット
こうした問題に対応するための切り札が「事業承継税制の特例措置」です。この制度を活用すると、後継者に自社株を贈与・相続する際の税金の納付を猶予してもらえます。要件を満たせば、実質的に非課税で株式を引き継がせることができます。
ただし、この制度には明確な期限があります。特例措置の適用対象となる贈与・相続は、2027年12月31日までに行われたものに限られます。今から動き始めても、残り1年半ほどしかありません。
「後継者が決まったら動こう」と考えていると、準備の時間が取れないまま期限を迎えてしまう可能性があります。特例承継計画の策定・提出から始まり、後継者の要件確認や税務申告の準備まで、申請までにやるべきことは思いのほか多いのです。
評価額そのものを下げる手法もある
仮に事業承継税制を活用するとしても、そもそもの評価額を下げておくことで、猶予される税額が減り、将来的なリスクも小さくなります。
代表的な手法のひとつが、類似業種比準方式における評価額の圧縮です。この方式では、配当・利益・純資産の3要素によって評価が決まります。決算期前の節税対策によって利益を適正に調整することで、評価額を引き下げることができます。
もうひとつが持株会社の活用です。オーナーが直接保有している自社株を、新たに設立した持株会社を通じて保有する形に組み替えることで、株式評価額を大幅に圧縮できる場合があります。この手法によって、3億円台の評価が1億円台まで下がった事例も実際にあります。
ただし、これらはどれも「タイミング」と「設計の精度」が重要です。相続直前に慌てて実行すると、かえって税務リスクが生じることもあります。少なくとも2〜3年のスパンで計画的に進めるのが理想です。
「決まってから考える」が一番危ない
後継者問題は、感情的にも難しいテーマです。子どもに継がせたいが乗り気でない、社内の幹部に任せたいがまだ早い、M&Aも選択肢に入れたい……。そういった悩みを抱えながら先送りしている経営者は多いと思います。
ただ、税務の観点からいうと、「後継者が決まってから対策を始める」では間に合わないことがあります。特例措置の適用には準備期間がかかりますし、評価額の圧縮には複数の決算期をまたぐ計画が必要だからです。
まずは「今の自社株の評価額はいくらか」「特例措置を使える状況にあるか」を、顧問税理士に確認してみてください。数字を見てから判断しても遅くはありません。でも、確認すらしていない状態で2027年末を迎えてしまうのが、一番もったいないパターンです。心当たりがある社長は、今期中に一度、事業承継の話をテーブルに乗せてみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。