先日、年商10億円ほどの製造業を営む社長から、こんな相談を受けました。

「息子に会社を継がせたいんだが、相続税が心配で……。一体いくらくらいかかるんだろう」

実際に非上場株式の評価額を試算してみると、3億円近い数字が出ました。相続税は基礎控除を引いても、ゆうに1億円を超えてくる水準です。社長は絶句していました。「真面目に会社を育ててきたのに、こんなに取られるのか」と。

この感覚、決して珍しくありません。一生懸命に会社を大きくしてきた経営者ほど、相続税に足をすくわれるリスクがあります。でも、承継の設計次第で、この状況は大きく変わります。

種類株式という、あまり知られていない承継の切り札

種類株式を活用した承継設計では、課税評価額を9割近く圧縮できた事例もあります。税務署が積極的に案内することはありませんが、会社法上は完全に合法の手法です。

種類株式とは、議決権・配当・残余財産の分配について、通常と異なる条件を設定できる株式のことです。一口に「株式」と言っても、その権利内容を柔軟に分けて設計できる点が大きな特徴です。

設計の仕組み:「経営権」と「財産権」を分離する

承継における種類株式の使い方は、大まかに言うとこうです。

後継者には「議決権あり・配当なし」という低評価の株式を先に渡します。一方、現オーナーは「配当優先・議決権なし」の株式を保持したまま、経営権だけを後継者へ移す設計です。

これにより、後継者への株式移転時に発生する評価額を大きく引き下げることができます。配当権や残余財産の分配権がない株式は、それだけ評価が低くなるからです。

現オーナーにとっても、引退後に配当優先株からキャッシュフローを得られるという安心感があります。経営実権を手放しても、経済的な基盤は確保されます。一石二鳥の設計と言えます。

具体的にどれだけ変わるのか

年商10億・純資産3億円規模の中堅企業を例に考えてみましょう。

普通に相続した場合、非上場株式の評価額は類似業種比準方式などで算出されます。仮に評価額が2億5,000万円とすれば、相続税は7,000万〜1億円前後になることがあります。

種類株式を使った設計では、後継者に渡す株の評価額を構造的に下げるため、課税対象を数千万円単位で圧縮できるケースがあります。「9割減」という結果が出た事例は、設計の精緻さと十分な事前準備があってこそです。

税務否認リスクを避けるために

ただし、この手法には必ず守るべきポイントがあります。

税務当局は、経済的実態を伴わない、あるいは節税目的だけで組まれた取引に対して否認できます。種類株式の設計が不自然と判断されれば、圧縮した評価額が認められないリスクがあります。

過去には同族会社の株式移転で税務否認を受けたケースも実際に存在します。必ず、非上場株式の評価に精通した税理士・弁護士と連携して設計を進めてください。また、種類株式の設計には数ヶ月〜1年以上かかることもあります。「相続が近づいてから考えよう」では、間に合わないことがほとんどです。

知っているかどうかで、億単位の差がつく

事業承継の節税は、情報と準備のスタートが早いほど選択肢が広がります。種類株式はその中でも代表的な手法ですが、正しく使えば非常に強力な武器になります。

まだ事業承継の設計を始めていないなら、今期中に一度、専門家へ相談の場を設けることをおすすめします。試算してみるだけでも、見えていなかった選択肢が広がりますよ。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。