先日、ある不動産オーナーの社長からこんな相談を受けました。
「10年前に2億で買った工場用地、今なら5億で売れると言われています。でもそうすると税金がすごいことになりますよね?」
そうなんです。含み益は3億円。何も考えずに売れば、法人実効税率(約34%)で約1億円が税金として消えます。買い手は5億出しているのに、手元には4億にも届かない。含み益3億のうちの1億円が、あっという間に消える計算です。
ところが、同じ状況でも「出口設計を知っている社長」はまったく違う動き方をします。
直接売却すると何が起きるか
法人が不動産を売却すると、その譲渡益は全額、法人税の課税対象になります。
取得価額が2億円、売却価額が5億円なら、課税対象となる譲渡益は3億円。法人実効税率34%で計算すると、約1億200万円の税負担が生じます。
帳簿上は「含み益3億あったはず」なのに、1億以上が税金で消えた形です。「損はしていないじゃないか」という声もわかります。でも逆から見ると、3億の含み益のうち3分の1以上が確実に消えるということ。これは「ゼロにならなかっただけ」であって、確実に1億円以上の機会損失が生じています。
不動産SPCという選択肢
では「知っている社長」はどう動くか。一つの有力な方法が、SPC(特別目的会社)への現物出資です。
SPCとは、特定の目的で設立する会社のことです。ここでいえば、不動産の保有・管理・売却を担う器。既存の事業会社から不動産だけを切り出して、この器に入れるイメージで考えてください。
ポイントは「適格現物出資」という税制上の仕組みを活用することです。一定の要件を満たすと、不動産をSPCに移す時点では課税が発生しないんです。
含み益は帳簿上SPCに引き継がれる形になりますが、税金の支払いは「売る段階」まで繰り延べられます。
出口の選択肢が増えることが最大の価値
直接売却との最大の違いは、出口の自由度です。
不動産をSPCに移したあと、選べる出口はいくつかあります。
SPCの株式を売却する形では、不動産そのものではなく会社ごと売る形になります。個人が株式を売却する場合、申告分離課税(約20%)が適用されるケースがあり、税率差だけでも大きな差が生まれます。
グループ内再編の活用や、毎年の配当として少しずつ受け取る設計も選べます。一度に大きな課税が生じない構造をつくることで、キャッシュフローを安定させながら出口を迎えることができます。
要するに、「いつ・どのくらい税金を払うか」のコントロールが効くようになるわけです。直接売却は「今すぐ1億払う」という一本道。SPC設計は、いくつかの道が分かれている交差点です。
1億円の差が生まれる理由
整理するとこういうことです。
何も対策しなかった社長は、含み益3億円に対して約1億円を即日納税します。そのお金は永遠に手元に戻りません。SPC設計した社長は、同じ不動産を動かしても、その時点では課税ゼロ。3億円が丸ごと次の手に使えます。
最終的にどこかで課税は発生しますが、1億円を10年間手元に残せるかどうかは、事業の意思決定に大きな差をもたらします。再投資できる、借入を減らせる、次の不動産に動ける。この差は思っている以上に大きいんです。
使う前に確認すべきこと
「じゃあすぐやろう」となる前に、いくつか注意があります。
適格現物出資には細かい要件があります。出資後の持株比率、支配関係、事業継続要件など、条件を一つでも外すと「適格」にならず、移転時点で即課税される可能性があります。また、SPC設立・維持にはそれなりのコストがかかります(司法書士費用、登記費用、毎年の決算費用など)。含み益が小さい場合は、コストが見合わないこともあります。
さらに、スキームの組み方によっては税務当局から「実質的な租税回避」と見なされるリスクもゼロではないため、必ず税理士やM&Aアドバイザーを交えて設計することが前提です。
「出口設計は、売る前に決める」
よく社長に伝えるのですが、出口設計のベストタイミングは売却が具体的に動き始める2〜3年前です。
いざ買い手がついてから「SPC使えますか?」と相談しても、要件の確認、法人設立、専門家との調整で時間が足りなくなることがあります。
含み益が膨らんでいる不動産をお持ちなら、「いつか売るかもしれない」という段階から動き始めるのが正解です。選択肢があるうちに相談しておくことで、全然違う出口が見えてくることがあります。まだ動いていない社長は、今期中に一度、専門家に現状を話してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。