先日、従業員50名ほどの製造業を経営する社長から、こんな話を聞きました。
「うちの会社、顧問税理士に評価を出してもらったら5億円もあるって言われて。でも正直、5億って言われても実感が全然わからないんですよ」
そう笑いながら話す社長の顔を見て、私は少し心配になりました。その「実感のなさ」の裏側に、放置すると2億円が税に消えるリスクが潜んでいるからです。
自社株は「会社の資産」ではなく「社長の財産」
まず一つ、知っておいていただきたい大前提があります。
自社の株式は、会社の資産ではありません。会社を所有する権利として、社長個人が保有する財産です。帳簿に乗っている機械や在庫は会社のものですが、その会社のオーナーとしての権利——つまり株式——は、社長個人の財産として相続の対象になります。
だから社長が亡くなったとき、自社株は「相続財産」として計上されます。評価額が5億円なら、後継者は5億円の財産を受け取ることになる。問題は、そこにかかってくる税です。
最高税率55%が現実になるとき
日本の相続税は累進課税です。相続する財産が多いほど、高い税率が適用されます。
課税対象額が6億円を超えると、最高税率55%の世界に入ります。自社株が5億円で、そこに預金や不動産が加わればすぐにその水準に達します。
単純に計算すると、5億円の株式だけで2億円超が相続税として消える計算になります。「会社を引き継いだ」と思った瞬間、後継者は数億円の納税義務を同時に背負うわけです。
しかも相続税は、原則として現金一括払いです。会社の売上や利益から払えるわけではなく、個人として現金を用意しなければなりません。資金がなければ融資を組むか、最悪の場合は株式を売却——つまり会社そのものを手放すことになりかねません。
残り1年半に迫る「特例」の存在
こうした事態を防ぐために、国が用意した仕組みが事業承継税制の特例措置です。
後継者が自社株を受け取る際、本来かかるはずの相続税・贈与税の全額が猶予されます。そして一定の要件を満たして事業を継続する限り、実質的にその税が免除になる制度です。
これが使えるかどうかで、手元に残る会社の価値が2億円以上変わります。対策のある社長とない社長では、まったく違う未来が待っているということです。
ただし、この特例には期限があります。適用できるのは2027年12月31日までに行われた贈与・相続に限られます。今日の時点で、残り1年半ほどしかありません。
「まだ間に合う」と「もう間に合わない」の境界線
1年半というのは、長いようで短い時間です。
事業承継税制の特例措置は、申請して翌日から使えるものではありません。会社の現状確認、後継者の要件整理、計画書の作成と提出、実際の株式移転——一連のプロセスには、半年から1年はかかります。
「2027年12月まであるから大丈夫」という感覚は、少し甘いかもしれません。準備期間を逆算すると、実質的なタイムリミットはもっと早い。
適用要件も複雑です。対象となる会社の条件、後継者が満たすべき要件、雇用を一定水準に維持する義務、申告のタイミング——それぞれにクリアすべきポイントがあり、一つでも外れると猶予が取り消されるリスクがあります。
今すぐできることは一つだけ
難しい要件の話をすると「自分には関係ない」と感じる社長もいますが、最初にやることはシンプルです。
まず自社株の現在の評価額を確認する。そして顧問税理士に「事業承継の特例措置、うちは使えますか?」と聞いてみる。それだけです。
「うちは規模が小さいから関係ない」と思っていた社長が、実は適用可能だったという話は珍しくありません。使えるかどうかは、その一歩を踏み出してみないとわかりません。
自社株の評価が数千万円以上になっているなら、今すぐ確認だけでもしておくことを強くおすすめします。2027年12月は、本当に近づいています。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。